なぜペーパーレス化が進まないのか
- 価値創造_室橋雅彦
- 10月20日
- 読了時間: 3分
「社長、また申請書の印鑑が足りないって総務から電話です」
「え、昨日ハンコ押したよ。どこ行ったんだ?」
「たぶん旧版のフォーマットで出し直しになってます」
朝の会議前、そんなやりとりを聞きながら、
社長は小さくため息をつきました。
DX推進会議で「来期こそペーパーレス化を」と宣言してから、もう半年。
クラウドストレージを導入し、電子承認システムも試験運用を始めました。
それでも、なぜか紙が減らないのです。
印刷機のトナーの減りは相変わらずだし、
机の上には結局、書類の束が積まれていきます。
現場からは「使いにくい」「結局紙のほうが早い」といった声が上がり、
社内に漂う空気はどこか白けています。
社長は思う。「これ、うちだけが抱えている問題じゃないな?」と。
実際、多くの中小企業が同じ壁にぶつかっています。
ペーパーレス化の本質は「紙を減らすこと」ではなく、
「情報の流れを変えること」です。
ですが、多くの取り組みではこの視点が抜け落ちています。
たとえば、請求書のやりとりを電子化する場合、
紙で回していたときの「確認」「印鑑」「控え」の意味を理解しないまま、
単にPDFに置き換えると、どこかで不具合が出ることになります。
結局、誰かが印刷して確認します。
紙が消えないのは、紙そのものが悪いのではなく、
情報の受け渡し方の前提が変わっていないからなのです。
つまり、ペーパーレス化が進まない理由は
「ツールの導入では解決しない構造的な課題」があるからなのです。
紙の裏には、社内の意思決定の流れ、責任の所在、安心感、
そして「これまでのやり方で問題なかった」という経験があります。
この文化の層を理解せずにツールだけを変えても、変革は定着しません。
だからこそ、「どうすれば紙がなくせるか」ではなく、
「なぜ紙が使われてきたのか」を掘り下げる必要があるのです。
そのために有効なのが、
顧客価値駆動型開発 / CVDD(Customer Value Driven Development)です。
CVDDでは、単なる業務効率化ではなく、「価値の流れ」に着目します。
紙のやり取りがなくならないのは、そのプロセスのどこかで、
誰かにとっての“安心”や“確認の証拠”という価値があるからです。
つまり、紙を捨てることは、そうした価値を失うことにもなりかねません。
だからこそ、置き換えるには新しい価値を設計しなければならないのです。
ある製造業の事例では、
図面の承認プロセスを電子化する際、単にデジタル承認に移行するのではなく、「承認後に誰が何を確認したか」が可視化されるダッシュボードを設けました。
紙のハンコが持っていた“責任の証”を、
デジタル上で“透明性”という新しい価値に変換したのです。
こうした設計思想こそが、CVDD的アプローチです。
ペーパーレス化を単なるIT導入として進めると、
「現場の負担が増える」「成果が見えない」といった不満が
蓄積しやすくなります。
CVDDの考え方を取り入れれば、
目的が「紙をなくすこと」から「価値を再構築すること」に変わります。
そのとき、現場の視点も変わり始めます。
「これは何のためにある仕組みか」
「誰の価値を守るための工程か」を議論できるようになるのです。
ペーパーレス化はDXの入り口であり、同時に企業文化の鏡でもあるのです。
紙に残っているのは“古い習慣”ではなく、“人の安心”なのです。
だからこそ、焦らず丁寧に、その安心を別の形で再設計することが大切だ。
ミームテック技術士事務所では、
こうした「技術導入と価値設計をつなぐ支援」を行っています。
ペーパーレス化を本当に定着させたい経営者の方、
現場の納得感と業務設計を両立したい方は、
ぜひ一度お問い合せください。
経営の悩みを、共に言語化し、次の一歩へとつなげていきます。
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