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顧客価値駆動型開発とM&A(第1回)

なぜ、M&Aに「価値の眼」が必要なのか


製造業におけるM&Aの現場では、

統合することでのコスト削減、売り上げ増加や技術の相互活用といった、

所謂「シナジー」や「スケールメリット」の観点で検討が行われます。

しかし、そうした言葉の背後にある「何のために統合するのか」

「統合の本質的な目的は何か」という問いに対しては、

十分に検討されていないケースも多く見受けられると感じています。


ミームテック技術士事務所が注目するのは、

M&Aにおいても「顧客価値駆動型開発(CVDD)」に基づく「顧客価値」の視点を

持つことの重要性です。

M&Aが単なる財務戦略ではなく、

真に市場にとっての価値を生み出す行為になるためには、

技術と事業を「顧客価値」から再定義する必要があるということです。


中小製造業にとって、M&Aは大手企業以上に重要な意思決定です。

後継者問題、人材確保、新市場への展開、技術力の獲得―多くの目的がそこに詰まっています。

御社のM&Aの「目的」が、経営陣の内向きな論理で決められているのではと、

もしも、少しでも懸念をお持ちならば、

顧客価値の観点で見てみることはどうでしょうか? 


本来ならばM&Aの出発点は、

「誰に」「どのような新しい価値を提供できるか」を明確に描くところにあります。

自社と相手企業が統合したとき、既存の顧客にとって何が変わるのか、

新たな顧客層に何を提示できるのか。

その視点がなければ、単にリスクを買い取るだけの行為に終わってしまうかもしれません。


ミームテック技術士事務所が関与する場合では、

M&Aの初期フェーズにおいて「顧客価値構造の見える化」を実施します。

これはビジネスモデルキャンバスやバリュープロポジションキャンバスを用い、

既存の製品・サービスが解決している顧客の「Pain(課題・苦痛)」と「Gain(成果・恩恵)」を

分析し、可視化するプロセスです。


さらに、買収対象企業側が持つ技術やノウハウが、

そのPainとGainにどう貢献し得るかを検討することで、

技術の移転やサービスの再構成が「意味ある統合」になるかどうかを見極めるのです。


さらに、顧客価値駆動型開発(CVDD)のアプローチの一つである、

「Blues(癒し)」と「Soul(励まし)」という視点を取り入れることも必要です。

  • Blues(癒し):顧客の感情的な痛み、不安、疲労に寄り添い、心を和らげる価値。共感の設計。

  • Soul(励まし):顧客の志や挑戦を後押しし、意欲や誇りを喚起する価値。関係性の構築


顧客価値駆動型開発によるM&Aでは、

「技術の引継ぎ」や「ブランドの継承」がゴールではありません。

むしろ、それらはスタート地点に過ぎません。

本質は、技術やリソースが新たな価値提供の手段となり得るか、

という問いへの答えを見つけ出すプロセスです。


たとえば、ある地方の金属加工業者が、

同じく地方にある試作開発型の小企業を買収したとします。

このとき、単に加工能力や顧客リストを拡充するだけでは、真の統合効果は生まれません。

むしろ、試作開発のスピードと柔軟性が既存の加工事業にどう付加価値を与えるか、

顧客との対話プロセスがどう変わるかといった、実装面にこそ可能性があるのです。


さらに重要なのは、統合によって「価値の創出構造」を進化させることです。


たとえば、両社の業務プロセスを単に統合するのではなく、

「顧客との共創」にフォーカスした新しい開発スタイルを模索する。

営業・開発・製造が連携して、

顧客のニーズの発見から提案・試作・量産へと至る一貫プロセスを設計し直す。

そこに、M&Aの本質的な意味があります。

単にコストを削減する、顧客数を増やすといった次元ではない「価値提供の革新」こそが、

顧客価値駆動型開発M&Aの目指すべき方向です。


そしてこのようなアプローチを可能にするには、従来の技術承継では不十分です。

必要なのは「知識の再構造化」、

すなわち、形式知(設計書、図面、作業手順)だけでなく、

暗黙知(設計思想、現場感覚、顧客理解)をも含めた価値創出の全体像を理解し、

再設計するプロセスです。


これには、顧客価値駆動型開発の基盤にある

システムズエンジニアリングの視点が大いに役立ちます。

製品やサービス、組織やプロセスを構造的に捉え、目的・機能・手段を切り分けていく。

こうしたアプローチによって、M&Aの統合後にも「意味のある機能連携」が可能になるのです。


M&Aは一過性のプロジェクトではありません。

むしろ、それは「再設計の旅」の始まりです。

企業が持つ技術、風土、人材を活かしながら、新しい価値を共創するための長期的な挑戦です。


顧客価値駆動型開発の視点を持つことは、

その挑戦を「自社の論理」ではなく「顧客の論理」から推進することにつながります。

それは、M&Aの成功を、単なる統合の成否ではなく、

「誰に、どのような価値を届けられるようになったか」という視点で捉える、

未来志向の経営判断でもあるのです。


ミームテック技術士事務所では、

M&Aにおける顧客価値の見える化と、

技術・サービス再設計の支援を行っています。

事業承継や新市場開拓にM&Aを検討されている企業様はもちろん、

将来のM&Aに備えて検討したい企業様においても、

ぜひお気軽にご相談ください。

 
 
 

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